2011-03-18

夢の話 3

夢の中だけに存在する街がある 
その街へ行くたび自分がいかにそこに住み慣れているかに驚く 
乗り慣れた電車、よく知った街並み、ビルから見るお気に入り の眺め、好きでよく通る路地裏、
行きつけの喫茶店のあの落ち着く匂いと灯り、見知らぬ親しい人も住んでいる 
現実では心当たりのない不思議な街

ある夜、夢の中のその街で起こった話 (3/4)

(2008年5月の記事を転載)







ミエコ・3



再び戻ってきた駅は終電も終バスもとっくに終わっていて明かりも消え人もなく、ちょっとした廃墟のようだった
どうして建物というのは人の気配が無いだけで虚無感に満ちるのだろうか
特に誰もいないビルなんかいいよね、休日のオフィス街とかさ
なんとなく声に出して言ってみると、どういう訳か次々と言葉が出てきて止まらなくなった
この町には魚市場があること、その為か横丁に魚料理の美味しい居酒屋があること、
その横丁で特にお気に入りの店はジャズ好きのオヤジがやってる狭い喫茶店の2階にある立ち読みマンガ喫茶だということ、
深夜3時過ぎ駅前に来る屋台のラーメンにはレモンが乗っていること、等々
実にくだらないと我ながら思うこの町の知識や思いつくままの様々な感想を垂れ流しつつ、
私はミエコの手を引きながら駅の裏側にある繁華街のとあるビルに向かった



このビルってさ、階段がいいんだよ
その5階建てのビルに着くとまず私は地下へと降りた
地下には中華屋とそば屋とパブがあり、その奥の重い鉄の扉の先に上へ続く階段がある
この時間にはもう1階フロアからは階段に行けないんだよ、一度地下まで来ないとね
扉を開け中に入る  扉が音を立てて閉まるとそこは何もかもから遮断され密閉された空間になった
さっきのそば屋の店長は実はそばよりラーメンが好きらしいとか、
あの中華屋の料理は店長の息子が厨房に入っているときには食べるもんじゃないとか、
5階の踊り場の窓から見える町の景色を眺めるのが好きでよく来ていたのだとか、
そんなことを誰に聞かせるでもなく一人喋りながら薄暗い階段を上って行った
「……ねえ……っ」
急にグッと腕を引っ張られ階段を踏み外しそうになり驚いて振り向くと、ミエコが立ち止まり私を……見ていた
「もう……何度も呼んだのに、気がつかないから」
そう言うミエコの目は涙のせいで真っ赤に腫れていたが、もう泣いてはいなかった
「私の話……ぜんぜん聞いてなかったんですね」
少し咎めるようにミエコはそう言うと、あははと声に出し笑った
笑ったのだ
「気づいたら魚屋がどうのとかそば屋がどうのとかヘンなことずっと言ってるし、」
急に不自然に感じ出すミエコを掴んだこの手を、
「わけの分からない所歩き回るし、」
離したほうがいいのだろうか
「泣き疲れたし、喉も痛いし、」
離さなければいけないのだろうか
「何だか……くだらなくなっちゃった」
私はミエコを掴んでいた手を……離した








(続)





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