2011-03-11

夢の話 2

夢の中だけに存在する街がある 
その街へ行くたび自分がいかにそこに住み慣れているかに驚く 
乗り慣れた電車、よく知った街並み、ビルから見るお気に入り の眺め、好きでよく通る路地裏、
行きつけの喫茶店のあの落ち着く匂いと灯り、見知らぬ親しい人も住んでいる 
現実では心当たりのない不思議な街

ある夜、夢の中のその街で起こった話 (2/4)

(2008年5月の記事を転載)







ミエコ・2



するとミエコは見る間に顔をくしゃくしゃにして泣き出し、堰を切ったように喋りだした

私はミエコの話を聞くでもなく、彼女の左手首を掴んだままホームを足早に歩きはじめた
しゃくりをあげて泣いていて足元もおぼつかないミエコを、まるで引っ立てるかのように
薄暗く静まり返った駅には馴染みようもない、足並みの揃わない靴音とミエコの必死な声が響く
ホームの階段を上りながら、ミエコが今日死んだら私は悲しいだろうか?と考えてみて……笑った
悲しいはずがない  知らないんだもの、こんな人
ガクッと腕を引っ張られ振り返ると、ミエコがつまづいたらしく階段に膝をついていた
階段のたった数段上から見下ろしただけなのに、ミエコはとても小さく見えた
転んだことに自分で気付いているのかいないのか、ミエコは這ったままただ泣いていて……ただただ一心不乱に嘆いていた
そうなんだろうね、と思った  あなたはこの上なく悲しくて辛いのだろうね、そう……絶望するほどにね 
その悲しみの理由なんて私の知ったことじゃないけれどね
そしてこうも思った  悲しみはこんなにも力強くある事が出来るものなのかと
私の内にある悲しみはこんなにも力強かった事があっただろうかと
私はミエコを全く聞かず、
ミエコは私を全く見ず、
私はミエコを引きずるように再び歩き出し、
ミエコは私に引きずられるように再び歩き出した






改札を抜け階段を降りるとすぐそこは大通りとバスターミナルに面した商店街になっている
しばらくぶりに来たこの町に懐かしい思いが込み上げてきた
商店街の入り口には以前と変わらず落ち着いたオレンジ色の店内照明の喫茶店があった
そうだこの店の珈琲はブレンドが一番美味しかったっけ、そんなことを思い出した
ミエコを連れて珈琲でも飲もうかとも思ったが、久しぶりに覗いてみたい店が他にもあったので入るのはやめ、喫茶店を素通りし商店街へと向かった
商店街のわき道を曲がり一本裏の通りを行くとそこは不思議な雰囲気の横丁になっていて、私は前からそこが大好きだった
相変わらず泣いて何か喋り続けるミエコを引っ張り、私は異空間のような横丁へ入った
日曜のせいか時刻のせいか残念ながらほとんどの店は閉まっていたが、以前と変わらぬ独特なその空気が私の何かをを満たしていくのを感じた
でもそれは……その空気のせいだけだろうか……





横丁を隅から隅まで歩き終えて今度は人のいない商店街を歩き始めながら、私はふと気付いた
こうしている間にもずっと聞こえているミエコの声、それがいつの間にか心地よいものになっていることに
あたり構わず反響するミエコの破裂のような感情が「私の何か」というものを満たしつつあることに
成る程ね、と妙に納得して一人呟いた
私がミエコの手首を掴んでまるで離そうとしないのは、彼女が私にとって大事なスケープゴートだからという訳か、と
商店街を端から端まで歩き終えアーケードが途切れるところまで来たので今度はドブ川のある暗い夜道を駅のほうへ引き返しながら、私はミエコをチラと振り返った
ミエコは相変わらず私に手を引かれるままたどたどしい足取りでどこを見るでもなく泣きながら未だ悲しみを吐き出し続けていた
ミエコの泣き顔は、その中にある悲しみをこそ私が贄として必要としているのだということを実感させた
ミエコが激しく悲しめば悲しむほど自分が浄化されていく気がする……カタルシス
だとしたら 
ミエコの中の悲しみが全て吐き出された時、その時私はこの手を離すのだろうか
その時私はミエコを輝きを失くしたただの抜け殻とみなしてこの手を離し、この夜にひとり置き去りにするのだろうか
……そんなことを考えながら冷えた夜道を歩いて行った




(続)





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