2011-03-07

夢の話 1

夢の中だけに存在する街がある 
その街へ行くたび自分がいかにそこに住み慣れているかに驚く 
乗り慣れた電車、よく知った街並み、ビルから見るお気に入り の眺め、好きでよく通る路地裏、
行きつけの喫茶店のあの落ち着く匂いと灯り、見知らぬ親しい人も住んでいる 
現実では心当たりのない不思議な街

ある夜、夢の中のその街で起こった話

(2008年5月の記事を再掲載)







ミエコ・1



急に遠くへ行こうと思い立ち、駅でエクスプレスの乗車券を買う
ホームに下りると丁度発車間際のエクスプレスが止まっていた
車体は暗く鈍く光る灰色で、窓が極端に小さく少ない
発車のベルが鳴り始め、私は慌ててその電車に飛び乗った
……が良く考えたら行き先を確かめていない
北には行きたくない、出雲の国に行きたいのに
そう思って行き先を確かめる為急いで電車から飛び降りた
車両の側面にあるはずの行き先掲示が……ない
キョロキョロしている間にベルが鳴り終わってドアは閉まり、灰色のエクスプレスは発車してしまった
誰もいない閑散としたホームに一人残され、私はひどく納得した
あぁ、きっと今はその時じゃないんだな、と






エクスプレスは諦めて帰路につく為に特急電車に乗った私
時刻は終電ギリギリ、今日は日曜日
車内にはそこそこ人が乗っていた  リーマン風、OL風、学生風……
私はドアに寄りかかり立って、車両内を見回していた
何か面白いことはないか、と
すると少し青ざめた顔をしたひとりの女性と目が合った
20代半ばくらいだろうか  ミディアムボブの髪……会社帰りのOL風に見えた
合った目を逸らさずにいると彼女は沈痛な微笑を浮かべて返し、
私の隣へ歩いて来てドア横のコーナーに背をもたれて、少し周りを気にするような声で、言った
「……私、今日……死のうと思うんです」
「今から? ……へぇ  名前は?」
「……ミエコ」
「ミエコ……ね」
そう彼女の名前を復唱した時の私の顔は相当ニヤついていただろう、
突然降って沸いたあまりにもあまりにおもしろそうなこの展開に
――電車は駅に到着、停車した  ミエコが降りる様子はない
ということは私や他の乗客と同じく、大きな乗換駅である次の終点駅でミエコも降りるつもりなのだろう
発車ベルが鳴り始めたのが聞こえると私はその音に何かを弾かれミエコの手首を掴み引っ張り、
電車を降りた
ミエコは驚いた顔をして私を見ている  当然だ
電車は程なく発車し、誰もいない閑散としたホームに――今度は二人――残され、私は言った
「別に……死ぬならそれでもいいよ」
するとミエコは見る間に顔をくしゃくしゃにして泣き出し、堰を切ったように喋りだした




(続)





0 コメント:

コメントを投稿

TOP